2011年02月

2011年02月07日

ひど過ぎるアメリカ「銃犯罪」



またアメリカで「銃」による乱射事件である。
6日。オハイオ州の州立ヤングズタウン大学の近くにある
学生寮で銃乱射事件があり、
学生1人が死亡、学生6人を含む11人が負傷したという。

今年1月には、アリゾナ州トゥーソンで男が銃を乱射し、
連邦判事と9歳の少女を含む6人が死亡、12人が負傷したばかり。
この事件では、
同州選出のギフォーズ下院議員が頭に銃弾を受け、重体になった。

「1日に約40人が射殺され、
3分に1人が銃で傷ついている。
それがアメリカの姿だ」

これは1993年のアメリカ。
しかし、そんな状況が「改善」されたという話は聞かない。
1999年には、13人の犠牲者をだしだ
コロンバイン高校乱射事件も発生。
銃による凶悪な犯罪は今日にいたるまで、まったく減っていない。



ガン



「誰も自分を守ってはくれない。
だから、自分の命は自分で守るしかないんだ。
銃? 当たり前さ…。
だってみんなが銃を持っているから。
撃たれる前に撃つ、
それがこの国の正当防衛なのさ」


5ドルの金、踏まれたスニーカー…
そんな些細な理由でも人が殺されいく。


「拳のケンカ? 冗談じゃないぜ。
そりゃ昔の話だ。
そんな事してたらアッという間に後ろから撃たれてお陀仏さ。
殺られる前に殺る、それには銃が必要って事さ」

かつて、
ロサンゼルスの少年ギャングの取材をしたとき、
少年たちは、そういってうそぶいた。

銃社会アメリカ。
その数は、2億丁以上といわれている。
この数字には警察や軍隊が持っている銃は含まれていない。

まずは、歴史的な背景を確認しよう。

開拓時代のGun 所持者は、主に裕福な人たちだった。
彼らは自分の土地や財産を他の侵入者や盗賊から守るため、
Gun(ほとんどがライフル) を買った。
なぜなら、この時代の警察システムは、
田舎の広大な地にあっては往々にして無力であったからだ。
南部アメリカに於いては、
現在でもこれと似た考えを持つ人たちが多い。

また、アメリカの政治的伝統にあっては、
銃を持つ事は、
自己を防衛していく上でのごく自然な権利であると考えられてきた。
多くのアメリカ人は市民が武器を持つ事が、
政府の圧政から自分たちを守っていく基本であると考えている。

市民戦争に於いて、
民主主義の名のもと、
市民が武器を持って政府に立ち向かった精神からきている。

しかし、
時代と共にアメリカ国民が銃を買う理由、
及びその種類も変わってきている。

連邦政府のデータによると、
1950年代後半に於いては、
そのほとんどが狩猟目的のライフルやショットガンで、
ハンドガンの割合は、
当時の年間売上 200万丁の約5分の1に過ぎなかった。

全米で犯罪が多発し、
各地で暴動や暗殺事件が発生するようになった1960年代になると、
銃の売上も急上昇し、1966年には 300万丁。

Martin Luther King、Robert F. Kennedy が暗殺された、
1968年には 500万丁に達した。
この銃の売上増加の原因が、
ハンドガンの割合の増加にあった事は言うまでもない。

50年代末、その数が50万丁であったハンドガンが、
70年代初頭には年間 200万丁にまで膨れあがった。
現在では、
アメリカ国内で買われている銃の二つに一つは、
ハンドガンという事になっている。

手軽に扱える銃が、
全米に溢れているということだ。



ガン2



1990年代になると、
少年たちの好むGunも小さい型のものになっていった。
『nines』と呼ばれる、
9mmのセミオートマチック銃が人気の的だった。

少年たちに言わせれば、
Tシャツの下でも目立たないこの“nines ”は、
夏用の銃として最適なのだそうだ。
おまけにとっても性能がいいらしい。

だが当然、その分値段も高く、
ストリートでは高値で売買されている。
よって、こんなGunを手にしているのは、
少年たちの中でも『crew』と呼ばれる麻薬や銃のディーラーや、
脅し・恐喝・殺人で金を得ている少年ギャングたち。

真新しいスニーカーを履き、
BMWを乗り回し、
金のネックレスやブレスレットを輝かせ灰色の街を闊歩する。

彼らは、普通の(?) 少年たちの憧れの的だ。
だから、『crew』のメンバーではない少年たちも、
Gunを持ち始めるようになる。

「何でGunが必要かって? 
そりゃ他の連中がみんな持ってるからさ。
格好いいし、強くなった気分になる。
それに、いざという時、
殺られる前に自分を守るにはGunしかない」

これが少年たちのごく普通の反応だ。
『crew』のメンバーにしてみれば、
Gunは簡単に金を稼ぐ最高の道具であり、
ケンカや抗争にあっては不可欠な武器だ。

一方、『crew』のメンバーではない少年たちにとっては、
Gunはファッションであり、
架空の力を他人に保持する為の道具でもある。

彼らは、crewの真似をして、
自分が、
『down』( “格好いい”の意味)な人間になった錯覚を楽しみ、
時には銃を見せびらかせて、
さもcrewのメンバーであるかのように振舞ったり。

「もし俺に何かしたら、
俺のバックにいるメンバーが黙っちゃいないゾ!」
という風に…。
これも自分の命を守っていく一つの方法だ。

『crew』のメンバーになる為には、
“人前で見ず知らずの人間を撃つ事”が条件である。
すると、「奴は本当にイッちまってる!」という、
『rep』(=reputation:評判の略。
殺人や強盗・麻薬などを評価する時に使われる)
が得られ、crewのメンバーになれるのだという。


では、連中は、どうやって銃を手にするのか。


一つが銃規制の緩やかな州から街に持ち込まれた銃を、
ディーラーを通してStreetで買う方法。
人気の9mm semiautomatic から
Saturday Night Special(小型で少年が最初に手にするような銃) 、
T字型の MET Machingun や 、
AK-47 のような大型の銃までなんでも揃う。

もう一つが、
殺されたり、逮捕された仲間が持っていた銃を回してもらう方法。
こちらも、その種類と量には事欠かない。

これらのGunは、
新品から中古まで様々な値段で売られているが、
基本的に、
何人もの人を殺しているGunは安い。
何故ならその銃を持っていて逮捕された場合、
前の持ち主の殺人まで一緒についてくる事になるからだ。

「Gunはユニホームになっている。
野球をしていた時グローブが必要だったように、
今の彼らにはピストルが必要な訳だ」

これは、ロスで取材したあるGunプログラムのカウンセラーの言葉だ。
「彼らの世界では、スニーカーを踏んだだけで、
すぐに銃でパンパンパンという事になってしまう」

“口は災いのもと”という言葉があるが、
彼らの間では口はすぐ Gun Shot に繋がる。
相手への罵詈雑言のことを彼らの言葉では『Beef』と呼ぶが、
この『Beef』がすぐに、
「Yo! whachoo doin',Pow Pow Pow …」という事になり、
ゴロリと死体が地面に転がる。

ファッションで銃を持ち、
ラップを聴きながら、
ビルの屋上でネズミを撃って遊んでいるような少年でも、
こういい放す。

「俺は今まで人に銃を向けた事は無いし、
これから先も向けようとは思わない。
でも、誰かが俺に銃を向けてきたら、
俺は撃つ。
もしそうなったら、
俺の人生がみんな変っちまうだろうから、
考えたくは無いが…」と。

けれども、
こんな少年でも、
実際に銃を人に向けるようになるまでに、
そう時間はかからない。



スクーター


 
1968年、
ロバート・ケネディはこう演説した。

「現在のアメリカが抱えてる最大の問題は、
溢れるGun とそれによる犯罪だ」

しかし、
彼は、この演説の翌日に暗殺された。
あれから43年。
銃社会アメリカは、
いまだに、思考停止状態にあるようだ。


(飯村和彦)

newyork01double at 15:58|PermalinkComments(0) 取材ノートより