2012年03月

2012年03月28日

福島第一原発と同型「ヤンキー原発」・運転延長反対デモ!



3月22日。
稼動開始から40年が過ぎたヤンキー原発(米国・バーモント州)対して、
その運転延長の反対を求める大規模な抗議デモが行われた。

デモに参加したのは約1000人の市民。
小さな子どもからお年寄りまで、
古い原発の運転継続に強い不安を覚える人たちが、
手に手に、
「ヤンキー原発、運転継続反対!」
「シャットダウン!ヤンキー原発」のプラカードや旗をもって、
およそ3.5マイル(約6キロ)の道のりをデモ行進した。






[filmed by Kazuhiko Iimura]





この日の抗議活動では、
93歳の女性を含む130人が地元警察によって逮捕された。
ただし、
地元警察も、
原発反対運動には一定の理解を示しているため、
この日の「逮捕劇」には、いわば「暗黙の了解」があり、
すべて混乱なく整然と行われ、
逮捕された130人は、後に全員釈放となった。

今年の3月21日で、
稼動開始(1972年)から40年が過ぎたヤンキー原発の、
運転期限延長(20年!)をめぐっては、
ここ数年、
アメリカで大きな議論となっていた。

施設の老朽化が進み、
冷却塔が壊れたり、
放射性物質を含む冷却水が漏れだすなどのトラブルが続出していたのだ。
さらに、ヤンキー原発は、
現在深刻な事態に陥っている福島第一原発と「同型」だった。
(備:同型の原子炉格納容器「マーク1」)

この事実が、
ヤンキー原発周辺住民の不安をいっそう深いものにした。

福島原発第一の事故発生前から、
バーモント州議会は、
原発周辺住民の意思を尊重する形で、去年2月、
ヤンキー原発の運転延長を認めない決定を下していた。

(備:去年2月、バーモント州上院が、
今年3月で期限切れとなる運転免許の更新を否決した。
同州は全米で唯一、
州憲法で原発の稼働への否決権を規定していた)

ところが、
アメリカ原子力規制委員会(NRC)は、去年3月21日、
(東日本大地震による福島第一原発事故発生の直後にあたる)、
20年間の操業延長を許可したのだ。

さらに、去年4月18日、
ヤンキー原発を所有するエンタジー社(電力会社)は、
バーモント州の決定権に異議を唱えて訴訟を起こした。

さて、この裁判で、
アメリカの司法が、どんな判断を下したのかというと…

今年1月19日。
アメリカ連邦地裁は、
エンタジー社の主張を受入れ、
ヤンキー原発の稼働期限延長を認める決定を下した。
40年稼動してきた原発を、
今後さらに20年、運転させるということだ。

「Shut down Yankee Nuke!」

運転反対を叫ぶ大規模なデモが行われた
3月22日は、
ヤンキー原発が期限延長運転に入った第一日目。
今年生まれたばかりの子どもにしてみれば、
彼、または彼女が成人するまで、
老齢の「ヤンキー原発」と共に生きていくことになる。
これって、
どう考えても無理があるだろう。

(飯村和彦)


newyork01double at 13:36|PermalinkComments(0) 取材先にて記す! | 地球環境を眺めると…

2012年03月23日

水飢餓の世紀!取材ノートより



時事通信によると、米国家情報長官室は3月22日、
2040年までに世界の水不足が深刻化し、
地域情勢の不安定化や紛争を招く恐れがあると分析した報告書を発表。
水不足の主な要因として、
人口増加、経済発展、気候変動を挙げた。

報告書は、
「今後10年間に水不足が原因で国家間の戦争が起きるとは考えにくいが、
地域の不安定化や緊張を高める可能性がある」と指摘。
一部の農業地帯では地下水が枯渇し、
世界の食料市場にも影響が出るとした。

2020年以降は、特に中東や北アフリカ、南アジアで、
水を「武器」あるいは「テロの手段」として利用し、
ダムなど水源施設が攻撃対象となる危険性が高まると分析。
また、
水の問題が主要国の食料・エネルギー生産を妨げ、
経済成長の足かせとなると警告している。

以下は、
「水飢餓の世紀」のテーマで調べた際の取材ノートを纏めたもの。
今私たちが抱えている「水(=淡水)問題」を知る上で、
多少の手助けになるのでは…と思い、改めてアップした。
参考にして貰えれば幸いです。


【水飢餓の世紀〜取材ノートより〜】


地球上に存在する水の総分量は、約14億立方キロメートル。
地球が「水の惑星」だといわれる所以である。
しかしそのほとんどは海水で、淡水は全体の約2.5%。
しかも淡水の3分の2以上は、
南極や北極の永久凍土や氷河である。


地球1
                   (アポロ11号が月から撮影した地球:NASA)


つまり、私たちが日常利用する河川や湖などからの淡水は、
地球全体の僅か0.01%にも満たない。

近年、その貴重な淡水が枯渇し、
急速なスピードで砂漠化が進行している。

国連の予測では、2025年には、
世界人口の2人に1人が深刻な水不足に陥る可能性があるという。
水は地上に生きる全生命の源であり、
すべての産業もまた、水なしでは成り立たない。
深刻化する水資源の現状に対して、なにができるのか。

東京大学の沖大幹教授は指摘する。
「水というのは量だけを確保すればいいのではなく、
汚れていて使えない水を綺麗にして使えるようにすることは、
水を作るのと同じなので、
そういう技術は短期間に導入可能だし、
非常に効果的な場合が多い」

そこで今、
日本の水処理技術が世界の注目を集めている。


日本の川
(東京・羽村取水場/ photo:kazuhiko iimura)


20世紀は石油の世紀だったが、21世紀は水の世紀

現在、世界の人口70億人のうち、
安全な飲み水を手軽に利用できない人は約11億人。
下水設備や衛生設備がない地域に住む人は25億人を超す。

中東や北アフリカの窮状はよく知られているが、
インドやインドネシア、韓国、マレーシア、シンガポールなども、
衛生設備の不備などもあり水飢餓状態にある。


川辺の人たち1
(インドネシア/ photo:kazuhiko iimura)


当然、中国も水は大問題。
水需要の増大による物理的不足の他、
工業廃水や生活排水による河川汚染が深刻で、
黄河や長江ともに大きな問題になっている。

また、
先進国でも水問題は深刻。
アメリカ中西部やスペイン、オーストラリアなども、
酷い水不足に陥っている。


日本の水資源、その実情とは?

日本は、水に恵まれた国である。
水道の蛇口を捻れば、安心で安全な水が手に入る。

例えば、
多摩川上流にある羽村取水堰を基点としている玉川上水は、
およそ350年前の江戸初期に、
多摩川の水を、
飲料水、農業用水として利用するために作られた。

羽村取水堰で一旦せき止められた水は、
毎秒2トンを川へ戻し、
その他は、一秒間に6トンが浄水施設へ送られる。
現在、多摩川水系の水は、
東京都民の約20%が使う水道水になっている。

しかし…

地球全体で見ると、
利用できる淡水の量は急速に減少している。
その僅かしかない淡水の使用状況はといえば、
70%が農作物と家畜を育てるために使用され、
その他は、
工業用水が20%、生活用水が10%の割合となっている。

特に農業用水の大部分は、
乾燥地域や半乾燥地域での灌漑用に使われている。

東京大学で、
グローバルな水循環と世界の水資源に関する研究を行なっている
沖大幹教授は、
水不足といっても地域によって実情が異なると話す。

「例えば安全な水がないというのは、
どちらかといえば物理的に水が少ないというよりは、
安全で安心な水を安定して供給する施設が足りない。
これは途上国が中心になる。
逆にそれなりに発展していても、
もともと乾燥した地域で、
無理やり循環型ではない資源を使っている地域。
地下水に頼っている地域は、
だんだん使える水資源が減ってきていて、
食糧生産に影響すると懸念される」


船2隻
(インドネシア/ photo:kazuhiko iimura)


世界の水資源問題の現状

下水や衛生施設の整備が進んでいない
インドネシアや中国、マレーシアなどの国々でも、
多くの人が、
きれいで安全な水にアクセスできない状態にある。

驚異的な経済成長を続ける中国では、
主要都市の3分の2が深刻な水不足に陥っている。
下水の大半は、
未処理のまま川や湖に垂れ流されているため、
中国全土では、およそ7億人が、
人間や動物の排泄物で汚染された水を飲んでいるという。

黄河流域では、
農業や生活用に多量の水を取水したため、
その流量が40年前の僅か10%にまで低下。
また、
長江(揚子江)には、
毎日約4000万トンものゴミや汚水が投棄されているという。
これら河川の汚染は酷く、
飲料水はおろか農業用水としても使えない地域も多い。

アメリカでも、
中西部を中心に水不足は大きな問題になっている。

北米・ロッキー山脈の東側に広がる
グレートプレーンズと呼ばれる平原。
日本の国土面積の10倍もあるこの乾燥地帯は、
本来、農業に適した場所ではないのだが、
なぜか大穀倉地帯になっている。
その訳は地下水の利用だ。


穀倉地帯1
(米国・中西部/ photo:kazuhiko iimura)


この地域の灌漑施設では、
井戸を掘って大量に汲み上げた地下水を利用。
半径・数100メートルの腕木に設置したパイプから水を撒いて、
作物を栽培している。

だが、
その水源であるオガララ帯水層の水は急速に減少。
井戸が枯れ、作物を作れない農地が急増している。


日本の食糧自給率と「水資源」の関係

世界の人口は2025年までに、
今より20億人増えると予測されている。
当然その分、食料と水の需要も膨れ上がる。
すると日本はどうなるのか。

日本の食料自給率はおよそ4割。
つまり、
食料の6割を海外からの輸入に頼っている。
実はここに、日本の抱える深刻な「水問題」が潜んでいる。


バーチャル・ウォーター(仮想水)

現在、日本が輸入に頼っている食料を、
もし国内で作るとしたら、どれ位の水が必要になるのか。
それが、
「バーチャル・ウォーター」の考え方である。

東大の沖教授の試算によれば、
「日本が輸入している主要な穀物や肉類を日本で作ったら、
どれ位の水が必要なのかを計算すると、だいたい640億トン。
日本国内で使っている農業用水が560億トンなので
それより多い水が必要だということになる。
我々は食料を輸入しているために、
国内の水資源を使わずに済んでいる」

つまり日本は、
食糧という形で毎年640億トンもの水を輸入していることになる。
これは作物や家畜のために、
日本全国で使われている水の量より遥かに多い。

幾つかの食料について、
もしそれを輸入せずに国内でつくったとしたら、
1キログラム当たりどれ位の水が必要になるのかを試算すると…

牛肉なら僅か1キロの肉を作るのに20トン、2万リットル。
これはエサとなる穀物に大量の水が使われるため。

鶏肉なら4.5トン、4500リットル。
小麦は2トン、2000リットル。
玉ねぎは160リットル。


穀倉地帯2
(米国中西部/ photo:kazuhiko iimura)


例えば、
牛丼を一杯つくるための材料には1890リットル、
およそ2トンの水が必要になるのだという。

21世紀は水の争奪戦になる」といわれている。
大切な水を使って生産された食料を大量に輸入している日本は、
その恩恵を世界に還元する必要がある。

そこで注目されているのが、
日本の持つ水処理技術。
飲み水や農業のために使える水を増やしてあげる。
その一つの方法が、
地球上にある水の約98%を占める海水から真水をつくること。


海水の淡水化とは?

もともとはアメリカのケネディ大統領が、
国家事業として始めたプロジェクトだったが、
今では日本企業の技術が世界をリードしている

例えば、
福岡にある日本最大の海水の淡水化施設、
「海の中道奈多・海水淡水化センター」
ここでは、
玄界灘の海水を処理して
一日最大5万トンの真水を生産している。
これは、福岡都市圏、25万人分の水になるという。

福岡市は人口が多い割に水源が乏しく、
渇水は日常茶飯事。
その解消のために選択された方法が、
海水の淡水化だった。


逆浸透膜1


逆浸透膜2
(逆浸透膜ユニット/ photo:kazuhiko iimura)


ここで使われているのが、
「逆浸透膜」と呼ばれる特殊な膜。
高圧をかけた海水をこの膜に通すことで、
塩分を除去し、真水だけを取り出す。
淡水の回収率はおよそ60%
つまり10トンの海水から6トンの淡水が生産できる。

コストは、
建設費の減価償却を含めて1トン当たり210円から220円だが、
ランニングコストだけだと、約100円。
平均1トン当たり150円とされる一般的な水道水よりは幾分高い。
しかし、施設の建設費が日本よりも安い海外になると、
一トン当たりのコストはもっと抑えられる。。

逆浸透膜は、
東洋紡、日東電工、東レなどが高い技術を持っており、
現在、
日本企業が占める逆浸透膜の世界シェアは、約7割。

地球レベルで深刻化する水問題に対応するため、
各企業では、
地域の事情に合わせた膜処理技術を構築、
海外展開を加速させている。

東レ、担当部長の説明。
「水源が海に近いところだと海水の淡水化が主に使われるが、
内陸部や、事情によっては下廃水を再利用するという考え方もあるので、
東レとしては、
海水淡水化専用の膜とか、下廃水専用の膜とか、
河川水・かん水用の膜とか、使い方に合わせた膜を開発している」


納豆菌群を使用したブロックで水質浄化も…

福岡県には、
汚れた川や池の底に並べるだけで水の浄化が図れるという、
画期的なブロックを開発した会社がある。

社長は、古賀雅之さん。
古賀さんが水質浄化ブロックの研究を始めたのは20年ほど前。
大手セラミック会社を退社し、
家業のブロック会社を継いだときのことだ。

「池でも非常に汚れたところがあれば、
そこに土を持ってきて混ぜてじっとしていれば、
いつの間にか綺麗になっている。それがヒント。
土の中には浄化する菌が沢山あるというのが最初の発想」

コンクリートブロックは、空気をたくさん含んでいる。
そこに水を浄化する微生物を
生きたまま入れることは出来ないか。

候補となる微生物を何種類も試し、
10年間に及ぶ試行錯誤の末、
最後に辿り着いたのが納豆菌だった。

納豆菌は、強酸性でも強アルカリでも生存し、
環境にも左右されにくい。
さらに、
コンクリートとのマッチングも非常に良かったらしい。

そして出来上がったのが、
納豆菌を含む有用微生物群を使った「エコバイオ・ブロック」。
休眠状態にある納豆菌群は、
水に触れると外へ飛び出し、
大腸菌や水の汚れであるデンプン、タンパク質などの有機物を分解。
同時に悪臭も消えるという。


ブロック(株)コヨウ・古賀さん提供) 


この水質浄化ブロックは、
大掛かりな装置や多額の建設費を必要としないこともあり、
ここ数年、新興国からの引き合いが急増しているという。

2002年にはマレーシアの前首相、マハティール氏が、
マレーシア工科大学の協力のもと、
ナショナルプロジェクトとしてバイオ・ブロックを採用。

2006年から2007年にかけては、
インド政府が、
ニューデリーを流れる河川を使って、
バイオ・ブロックの大規模な性能試験を行なった。

去年7月、
インド政府の中央汚染管理局がまとめた詳細な検査結果によると、
水の汚れを表す指標が、
使用前に比べいずれも低下、30%以上改善された。
浮遊物質の量も60%以上改善。
アンモニア成分も大幅に減り、
バイオ・ブロックに一定の水質浄化効果があると認められた。
さらにインド政府は、
「エネルギーやメンテナンス、大きなプラントなどを必要としない利点がある」とも報告している。


マレーシア1
(マレーシア・古賀さん提供)


「現状から、例えば2割から3割、水の浄化を行なう。
またさらにその後、2割減らす、3割減らす…というように、
徐々に減らしていくという位置づけ。
その後は、もっと高度な処理技術が日本には沢山あるので、
その前段階として使ってもらうには非常にいい」(古賀社長)

インドや中国のバイオ・ブロック導入理由は、
河川の水質浄化という現実的な目的のほかに、
目に見える対策をとることで、
真っ黒に汚れた河川周辺に住む住民に
環境保全意識を持たせる目的もあるという。

どんなに優れた浄化剤や設備・プラントをもってきても、
人間が、
その処理能力を超える勢いで水を汚していたのでは話にならない。
どちらの現場にも、
「バイオ・ブロック導入の理由が書かれた表示」が立ててある。


二羽のかも
(photo:kazuhiko iimura)


地球上に存在する水の量は概ね変わらない。
だから、
使用できる水は、大切に扱う。
汚染された水が、
一夜にしてクリーンな水に変わるとも考えにくい。
身の回りの「水」に注意を払いながら、
気球規模の水環境にも視野を広げて、
ともかく、できることから一日でも早く。
そうしないと、
本当に、取り返しのつかないことになってしまう。


(飯村和彦)

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