2016年06月

2016年06月30日

増え続ける無差別テロの脅威!沢木耕太郎さんが「深夜特急」で描いたような旅はもうできない。


この暗澹たる気分、言い知れぬ不安感をどう言葉で表現したらいいのか。

トルコ最大都市イスタンブールのアタチュルク国際空港で発生したテロでは、29日までに41人が死亡、239人が負傷した。つい2週間ほど前には、米国フロリダ州オーランドでIS(イスラム国)に忠誠を誓ったとされる男がナイトクラブを襲撃。銃を乱射し49人の命を奪ったし、3月にベルギーの首都ブリュッセルで発生した同時テロでは、32人が死亡。また昨年11月のパリ同時多発テロでは、レストラン、劇場、サッカー場などが襲撃され130人もの人が殺され、350人以上が負傷している。
さらに中東やアフリカに目を移せは、毎週のように何十人もの一般市民が無慈悲なテロの犠牲になっている。

世界は今いったいどうなっていて、これから先どうなっていくのか…。
幾つもの国境を越えて見知らぬ土地を訪れ、初めて出会う多種雑多な人や文化に触れる…もうそんな旅をすることはできないような気がする。実際、中東では現実的に不可能だろう。

イランやイラク、アフガニスタンに行ってみたい…と思ったのは学生の頃だ。沢木耕太郎さんの「深夜特急」を読んだ後のことだった。路線バスでごつごつした砂漠地帯を夜通し走り、明け方の市場でその土地特有の朝メシを食べる。世界史で学んだメソポタミア文明の地(現在のイラクの一部)であるユーフラテス・チグリス川流域を通り、そのままヨーロッパまで足をのばす。本を読みながら勝手にそんなことを想像していた。
約30年前、メディアの仕事についたのも少なからずそんな願望があったからだ。自分の目と耳で世界の国々に生きる人たちの生活を感じ、意見を聞く。そして、ものごとに対する多様な考え方に接してその意味を多くの人に伝えていく(…というかその努力をしていく)。そんな仕事だ。




北朝鮮国境
(北朝鮮と韓国の国境付近 photo: kazuhiko iimura)




北朝鮮と韓国の国境を目の当たりにしたときは、同一民族でありながらもどうしても折り合いをつけられない問題がそこに在ることを肌で感じたけれど、そんな状況にあっても韓国には、命がけで脱北者に暖かい支援の手を差し伸べている人たちがいた。

ハイチには、上等じゃないけれど綺麗に洗濯された白いシャツを着た少女たちが夜、街灯の下で頑張って勉強をしていた。貧しさに負けない強さだ。
モンゴルでは生活に使う水を買いに行くのは子どもの仕事。一日に一度、大きなタンクをのせた台車を押して給水所にやってくる。道はデコボコだった。




モンゴル2
(モンゴルの給水所 photo: kazuhiko iimura)




これまでに訪れたのは約20カ国。そのたびに痛感したことは「違い」のあることの当たり前さであり、その「違い」を認めることの大切さだ。人種や宗教、政治体制や気候、風土、国としての発展度や成熟度などによってそれぞれ異なるし、同じ一つの国の中でさえ、地域ごとに明らかな「違い」がある。当然ながら、その「違い」があることによっていいこともあれば悪いこともある。意見がぶつかり合って激しい論争になる。紛争もあれば悲劇も起こる。
でも「違い」がなければ「想像力」は喚起されないはず。個人的な考えでしかないけれど、人間が他の人々と共に生きていくうえで一番大切なものは「想像力」だと思う。だからその「想像力」を喚起させる「違い」がとっても重要になり、重要だからこそその「違い」をそれぞれが認め合う必要がある訳だ。積極的にだろうが消極的にだろうが、最終的にはあれこれある「違い」をそれぞれが尊重する。じゃないと世の中が壊れてしまうから。

で今まさに、「違い」を認めない「不寛容さ」ゆえに世界が壊れ始めている。

国民がEU離脱という選択をしたイギリスでは、若者たちが、「クソ移民!」「アフリカに帰れ!」と公衆の面前でアフリカ系男性に罵声を浴びせるという事件が発生、似たような人種差別主義者による犯罪も増えているという。悲しくて空しい現象だ。
また、ベルリンの壁が打ち壊されてから27年たった今、ヨーロッパの国々は難民・移民対策として国境警備を強化している。モロッコとスペインの飛び地セウタの国境、トルコとギリシャの国境、トルコとブルガリアの国境などには、高いフェンスと有刺鉄線が設置された。
まさに不寛容の象徴でしかない。
米国では共和党の大統領候補トランプが、「不法移民の強制送還」や、移民流入阻止のためにメキシコとの国境に「万里の長城」を築くと公約。失われた「大国のプライドと主権」を取り戻すべきだと訴え、少なくない支持を集めているのは周知の通り。

そして中東やヨーロッパ、米国で多発している無慈悲で残虐なテロ。
トルコの空港で発生したテロについては、いまのところどの組織からも犯行声明はだされていないが、当局はIS(イスラム国)による犯行の疑いが強いとみて、自爆した実行犯3人の特定とその背後関係の解明に全力を挙げているという。
けれども一番の問題はそこじゃない。
いま何が恐ろしいかといえば、世界中どこにでもIS(イスラム国)的なテロに及ぶ輩が存在し、増えていること。米軍の支援を受けたイラク軍の攻撃によりIS(イスラム国)支配地域はかつてよりはだいぶ縮小したというが、その分、彼らの主張に同調する他国にある組織や個人がより過激になっているように思えてならない。特に「個人」の場合は、どこの誰が「テロリスト」であるのか、テロが発生した後でないと分からないという現実が横たわる。

いつどこで自動小銃が乱射され、自爆テロが起きるか分からない。だから誰もがもう、傍観者じゃいられない。そんな現実を肝に銘じながら、まずは自分にいま何ができるのかを考えたい。

悲劇の現場を記憶に焼付け、テロの犠牲になった人たちを心から悼むこと。
空から降ってくるミサイルに怯える武器を持たない人たちの心境を想像すること。
子ども達には、「テロや武力では人の心を変えられない」という事実を伝えること。
そして「違い」を認め他者に寛容になること、またはその努力をすること…か。

(飯村和彦)




newyork01double at 17:33|PermalinkComments(0) テロとの戦い | 取材ノートより

2016年06月08日

ヒラリー大統領候補へ「この国の歴史で初めて」。今だからこそサンダースの叫びに耳を傾けたい



民主党の大統領候補は、”ほぼ間違いなく”ヒラリーで決まり。
「この国の歴史で初めて…」
ヒラリーは勝利宣言のスピーチでそういって微笑んだ。
でもそんな今だからこそサンダースの叫びに耳を傾けたくなる。




ヒラリーとサンダース
(CBSニュースより)



ニュージャーシー州での予備選の圧勝を受けて「勝利宣言」をしたヒラリーだが、カリフォルニア州予備選でも勝利するだろう(この原稿を書いている段階では10ポイント以上差をつけてヒラリーがリードしている)。
当初、接戦が伝えられていたカリフォルニア州だけれど、蓋を開けてみればヒラリーの圧勝に…といっても差し支えないだろう。やはり、きのう(6月6日)の全米メディアによる「ヒラリー指名獲得に必要な代議員数2383人を確保」との報道が大きかったに違いない。


さすがのサンダースもこのカリフォルニア州での結果を受けて終戦かと思いきや、冗談じゃないとばかりに最後まで闘うと宣言した。まるで「ドンキホーテ」のよう…といっては失礼かもしれないが、いまだに血気盛ん、意気軒昂だ。既に選挙スタッフ数を半減したというけれど、なんとか上手い具合に踏ん張って、彼の主張や提案を少しでも今後に反映させて欲しい…と彼の支持者も願っているのだろう。

「民主社会主義者」を自任し、格差是正を前面に掲げてヒラリーの前に立ちはだかったサンダース。当初の「泡沫候補」との評を覆してここまで大健闘した彼の戦いぶりは間違いなく賞賛に値する。
1%の金持ちだけが得をするいまの社会構造を徹底的に否定し、既存の「金のかかる政治」からの脱却を訴え続けたサンダースのメッセージは、まったくぶれなかった。「革命を起こすんだ!」という彼の叫びに、多くの学生や働けど賃金の上がらない人たちが共感したのもうなづけるというもの。


69歳の自称ミュージシャン、トンプソン(Scontz Thompson)さんもサンダースの熱狂的な支持者だった。彼から自分の曲のビデオクリップをつくってくれないかというメールが入ったのは今年4月。建設現場での仕事をやめ、いまはランドリー(洗濯屋)でパートタイムの仕事をしながら音楽活動をしている。彼の曲は、「1% Trickle Down Caste System Blues」。1%の金持ちだけが潤う格差社会を痛烈に批判した内容で、サンダースの応援歌だといった。歌詞は、毎月送られてくる請求書にのたうちまわり、銀行預金もなければ将来もない…というような内容で、自分たちの生活をそのまま歌にしたものだった。







トンプソンさんは、いまこの段階にいたってもまだサンダースを応援しつづけている。
「74歳とは思えないあのエネルギー。誠実な人柄。知性。世直し(政治改革)に挑む姿…。凄いと思う」。だから自分も最後まであきらめないのだといった。彼は、サンダースのいってることが一つでも実現することを願っているのだ。

いまさらという気がしないでもないが、サンダースの提案をおさらいしてみると…。彼は就任後100日間に実施する政策として、医療の国民皆保険、最低賃金の15ドルへの引き上げ、インフラ整備への投資拡大を挙げた。
また大学については、「全ての公立大学で授業料を免除する」として、そのための財源(7500億ドル)は金融取引に課す新税から拠出するとした。

この中から、分かりやすい例としてアメリカの大学の学費を見てみよう。高いとはいわれているが実際にはどれぐらい高いのかといえば、これが信じられないほど高い。総合大学の学費は私立で年額35,000ドルから50,000ドル。1ドル110円で換算すると日本円で年間385万円から550万円。つまり4年間で約2,000万円にもなる。州立(=公立)大学でも年間約25,000ドル(約275万円)だから、4年間で軽く1,000万円以上だ。これってどう考えても常軌を逸している。
アメリカには、各種の奨学金制度(返済しないでいいもの)があるけれど、学費が学費だからほとんどの学生が重〜い学生ローンに苦しんでいる。サンダースが打ち出した「公立大学の授業料免除」という提案が、あれほど熱狂的に学生に支持されたのはそんな現状があるからだ。
だが当然のようにサンダースの提案する政策には疑問の声があがった。

「確かに夢のような提案だけれど、本当に実現できるの?」

たぶんこの問いに象徴されるような、政策課題への向き合い方の違いが、ヒラリー支持派とサンダース支持派の違いだったように思う。「実現可能な改革案をだして、ものごとを先に進めることが大切」という実務型がヒラリー派で、「国民が動けば大きな夢も現実になる」という革新型がサンダース派だったように思う。
もちろん、一般的にいわれているようなヒラリー=主流派(体制派)、サンダース=進歩派という表現でもいいけれど、ともかくこの二人の間には思想や政策に大きな隔たりがあるのは事実だろう。




サンダース プレート
(photo:kazuhiko iimura)



しかしそうはいっても、いつまでもぐずぐずしているわけにはいかない。民主党の大統領候補になることが(十中八九)決まったヒラリーは、一刻も早くサンダースとの間にある深い溝を埋めなくてはいけない。そうしないと秋の本選でトランプに負けてしまうかもしれないから。そのためにヒラリーはなにをするのか、なにをすべきなのか。サンダースを副大統領候補するという選択は(多分)ないにしても、可能な限り彼の考えを尊重し、その提案なりを現実のものにする努力をするのでは?この期に及んでもサンダースが「闘う姿勢」を崩さない理由がそこにあるのは間違いないように思う。民主党の政策目標を提示する党の綱領に「サンダースの主張」を反映させる、そのために7月の党大会まで走る続けるのだろう。

(飯村和彦)




newyork01double at 19:17|PermalinkComments(0) 取材ノートより | マサチューセッツ州・Amherst