2019年03月

2019年03月23日

「遺伝子組み換えサケ」と「漠然とした懸念」について



ずっとフォローしていた「遺伝子組換えサケ」。
FDA(米国衛生保健局)が、米国内での食用を許可(2015年11月)した件。
2013年の春頃から「もうすぐ認可」といわれていたから、
最終判断まで結構な時間がかかっている。
だが随分前に、多くの米国内の大手スーパーは、
「遺伝子組換えサケは扱わない」
としているから当面販路は限られるだろう。

(備:事実、2019年の現段階にいたっても、
アメリカ国内で「遺伝子組換えサケ」は一般には流通していないよう)




遺伝子組み換えサケ
(AquAdvantage salmon )




この「遺伝子組換えサケ」については、かなり詳細に調べ上げた。
当然、開発したAquAdvantage社にも話を聞いたし、
各種研究リポートやFDA報告書にも目を通した。
その結果の印象というか予想は、
さまざまな意見があってもFDAとしては、
この「遺伝子組換えサケ」の食用許可を出さざるを得ないだろう、
ということだった。

「自然に存在している食物(この場合はサケ)と同じ品質なら許可」
という条件だけを見れば、
遺伝子組換えによってできたサケ(食べる際には切り身?)は、
自然のサケのそれと変わらないのは科学的に証明されていたから。

しかし当然ながら、
それを作る方法「遺伝子組換え」が議論になった。
例え出来あがったものが、自然のサケ(の切り身)と同等の品質だとしても、
それでもやはり、
「何かが違うのでは?」「あとで妙なことがおこるのでは?」
という漠然とした懸念はぬぐえない。

もちろん、
そんな「漠然とした懸念」は、
科学的検証によって「根拠のないもの」だと分かるのだが、
そういわれてもすぐに「ハイそうですか」とはならない。

確かに「遺伝子組換えサケ」が作られる工程を見ていくと、
魚の養殖でよく使用される、
「抗生物質やビタミン剤」の類の薬品は一切使われていない。
その意味では、
「遺伝子組換えサケ」の方が、「養殖サケ」と比較した場合、
よりオーガニックに近いということになる。

しかしながら、繰り返しになるが、
やはり「遺伝子組換え」という手法に対する「漠然とした懸念」は、
なにをどう科学的に説明されても、
それが「漠然としたもの」であるがゆえ、ぬぐわれずに残る。

実はこの「漠然とした懸念」というのは、
我々が生きていく上で結構大切。
だから、
それをたんなる「妄想」だとして簡単に切り捨てるべきじゃない。
FDAが許可を出すまでに、
当初の予想より遥かに長い時間を要した訳も、
ひとつにはそんなことがあったように思える。

そんな背景があるからなのだろう、FDAでは、
「遺伝子組換えサケ」であることをきちんと明示することを義務付けるらしい。
「漠然とした懸念」のある人が、間違えて手にしたり、
知らないうちに食べたりしないようにするには最低限必要なことだ。

遺伝子組換え食物の現実をみれば、
大豆やトウモロコシの90パーセント以上が遺伝子組換えであり、
パパイヤも多くが遺伝子組換え。
害虫や灌漑に強い遺伝子組換え稲などもある。
けれどもだからといって、
「そんな時代になっているのだから仕方ない」として、
「漠然とした懸念」を捨てたりしては絶対にいけない。

ものごとが、
良くない方向に流れ始めるのを最初に察知するきっかけになるのが、
この「漠然とした懸念」であるはずだから。


(飯村和彦)

newyork01double at 12:11|PermalinkComments(0) マサチューセッツ州・Amherst | 地球環境を眺めると…

2019年03月11日

福島第一原発事故、放射能「汚染水」問題の核心


東日本大震災から8年。
未だに多くの被災者が厳しい生活を強いられている現実に心を痛めるばかり。



福島1
(福島県南相馬市/ photo:kazuhiko iimura)



この間ずっと気になっていることの一つが、
福島第一原発にたまり続ける放射能汚染水の問題。
現状のまま増え続けると、
早ければ今年末には貯蔵タンクを据える場所もなくなり、
約2年後には貯蔵タンクが満杯になってしまうという。

にもかかわらず、
その「放射能汚染水」そのものの浄化レベルも、
これまでずっと発表されてきたレベルと現状とでは、
かなり違っていることが去年、突然明らかになった。

どんなことだったのかをおさらいするため、朝日新聞から。

「東京電力は28日、福島第一原発のタンクにたまる汚染水について、浄化したはずの約89万トンのうち、8割超にあたる約75万トンが放射性物質の放出基準値を上回っていたことを明らかにした。
一部からは基準値の最大約2万倍の濃度が検出されていたという。
今後、追加の処理が避けられなくなり…」
(去年9月29日付)

「保管する大型タンクに入れる前の放射性物質の検査で、トリチウム以外に、ストロンチウム90、ヨウ素129が国の基準値を超えていたことを明らかにした。東電はこれまで『トリチウム以外の放射性物質は除去されている』として、十分な説明をしていなかった。
構内で発生した汚染水は、セシウムを吸着する装置と、62核種を除去する装置『アルプス』を通り、取り除けないトリチウムを含む汚染水がタンクに保管されていると説明されていた」
(去年8月21日付)

つまり、

それまで何年にもわたって行われてきた汚染水処理が、
その浄化レベルにおいて全く別物だったということだ。

こんな話、ないでしょう。

どうして発表が去年の秋になった?
当然、汚染水の放射能レベルは、
当初から数値としては分かっていたはずでしょう?
ならば今はどうなの?

そんなあれこれを見るにつけ、
いかに東電や政府が事実を隠してきたかがわかるというもの。
まあ、安倍政権や東電の隠蔽体質については誰もが知るところだから驚きはしないけれど、
だからといって当然許されない。

さらに福島第一の放射能汚染水の処理に関して思いだされるのは、
処理技術に関してアメリカのピュロライトという会社が、
日本の日立GEニュークリア・エナジーを東京地裁に訴えた(2015年)こと。
訴状におけるピュロライト社の主張は以下の通り。

「日立GEニュークリア・エナジーが、
2011年に両社間で締結した独占的パートナーシップ契約に違反しており、
かつ、福島第一原子力発電所における水処理装置において、
ピュロライトの営業秘密を無断使用している」

誤解を恐れずにいってしまえば、
東電側は当初、
ピュロライト社の技術を中核に放射能汚染水の処理をする約束をしたにもかかわらず、
蓋を開けてみればピュロライト社の技術だけをちゃっかり使いながら、
彼らを契約から外したということ。
(ピュロライト社の技術を得るために日立は、
経済ドラマさながらの手法を使っていたようだが、ここでは省略)

結論からいうと、
最終的に東京地裁はピュロライト社の訴えを退けた(2017年)訳だけど、
法的な解釈はともかく実際には、
東電側が都合よくピュロライト社の「技術だけ」をとった
…という印象は拭えない。

参考までに、
ピュロライト社が実証したという汚染水処理能力は以下のよう。


1)福島第一原発の汚染水に含まれる62種の放射性物質を、検出不能レベルまで除去できる。
これは実際の原子炉敷地内から採取した汚染水を使用した試験によって検証されている。
2)現在の汚染水処理で発生する放射性廃棄物の量を85%超も減らすことができる。
3)高濃度放射能汚染水を貯蔵するタンクの必要性がなくなりる。
4)地下水が原子炉に侵入するのを防ぐ防護壁の必要性が低くなる。


もし、ピュロライト社の技術を中核に据えて、
彼らと一緒に放射能汚染水の処理をしていたらどうなっていたのか。
正直、こればかりは分からない。


けれどもピュロライト社の言い分は間違っていないようにも思える。
曰く、技術だけを抜きだして使ってもうまくいかない。
実証試験通りの結果を出すには、技術そのものだけではなく、
必要な装置・設備の適切な使い方、つまり「運用の仕方」が重要。
その最適解は技術とシステムを開発した当事者が持っている。

果たして東電はどうだったのだろう。
結果を見ればきちんと処理できていなかった訳だから。




福島3
(福島県南相馬市村上海岸/ photo:kazuhiko iimura)




けれど、もう四の五のいっている余裕はない。
長く見積もっても、
数年以内に確実に汚染水をどうにかしないといけない訳なのだから。
「想定外の事故」で貯蔵タンクが壊れ大量の汚染水が海へ…
まさかそんなことを想定している訳じゃないだろうから。



福島2
(福島県南相馬市/ photo:kazuiko iimura)



飯村和彦


newyork01double at 19:25|PermalinkComments(0) 取材ノートより | 地球環境を眺めると…