スズメに飛ぶ楽しさを教えるまで…雀の話(中)箱を開けたら…25年という歳月

2006年07月15日

スズメは飛び、胸を張った!…雀の話(下)



産毛がほぼ、抜け落ちたころの「ぴ」。
元気一杯だったのだが、
なぜか、
ぴょんぴょん跳ねてばかりで、
積極的に飛ぶことがなかった。


スズメのぴ、2


2年前の5月半ば。
生まれたばかりで巣から落ちた「ぴ」を娘が見つけ、
我が家で育て始めてから約1ヶ月が過ぎていた。

もちろん、羽の成長とも関係があったのだろうが、
そうはいっても、
「ぴ」、
家族の後を追い、
床をぴょこぴょこ付いてきては、
ひょいと飛び上がり、
肩にちょこんと停まる位の飛翔力はあったのだ。

そこで私たちは、
「ぴ」に、
“飛ぶ楽しさ”を教えてやろうと思った訳だ。
まあ、「ぴ」にしてみれば、
お節介な話だったかもしれないのだが、
ともかく、飛行訓練を実施することになった。

最初は、机の上ぐらいの高さ(約1m)から。
そこに「ぴ」をとまらせ、
2、3メートル離れたところから呼び寄せる。
その位の距離だと「ぴ」は、簡単に飛んできた。

以後、数日かけて、
少しずつ高さと距離をのばしていった。

で、ある日のこと。
高さ約2メートルのドアの上に「ぴ」をとまらせ、
約8メートル離れた場所から呼んでみた。
その時の様子がこれ、「ぴ」が飛んだ!(↓動画をご覧あれ!)






 
このときは、
さすがに嬉しかった。
カメラの上にとまり、胸を張った「ぴ」が頼もしく見えた。
やるじゃない…!

以降、「ぴ」は、
家族の誰かがが家に帰ると、
飛んできて、
迎えてくれるようになったのだ。
もちろん、
カゴ(…といっても180cm×80cm×60cmの大きなもの)から出て、
遊んでいるときだけ…。

こうなれば、
「あとは野に帰る日のために、
力強く、大きくなるだけだ!」
「ぴ」ならできるのでは…、と思えた。

「巣から落ちて人間に育てられたスズメは、
野に戻っても長生きはしない」
と、獣医には言われていた。
よって、
その獣医は、助けたスズメを小さなカゴの中で飼っていた。
もう5年になるともいった。
「そもそも、野にいるスズメの寿命は2、3年ですから」

しかし、
他のスズメの2倍生きていても、
小さなカゴの中じゃなあ…との思いは拭えなかった。
「ぴ」には、
大きな空を自由に飛んで欲しい。
「ぴ」なら出来るに違いない!

人間のエゴなのかもしれないが、
我が家の人間たちにとって、
それが次なる目標となった。

事実、
「ぴ」は日に日に強くなっていった。
あとは自分でエサを探せるかどうか…
心配事といえばそれだけだった。

「公園にいって、“ぴーッ!”って呼ぶと、
“ぴ”、今と同じように飛んでくる?」
娘はそんな光景を夢見ていた。
「そりゃ、くるさ」
根拠など無かったが、日々の「ぴ」を見ていると、
それが、ごく当たり前のように思えていた。

ところがある日、
突然、「ぴ」に元気がなくなった。
娘が公園で助けてから、
約2ヶ月半たったころだった。

下痢が二、三日続いた後、
食欲がなくなり、
…「ぴ」は死んだ。
獣医にいわせると「感染症」だったらしい。

息子と娘は最後まで、
交代で、
「ぴ」を手のひらで包み、頭を撫でた。
 ”ピーッピーッ”と力なく鳴きながら、
ゆっくり瞼(まぶた)を動かして…。
それが「ぴ」の最期だった。

それからというもの、
街で見かけるスズメが、
みんな「ぴ」に見えるようになった。
それは、妻や子供たちも同じで、
公園でスズメを見かけるたびに、
「ぴ」の話になった。

「あれ、“ぴ”より大きいね」
「あのスズメ。“ぴ”より断然早く飛んでるよ!」
「“ぴ”の目、可愛かったね」
 …………。

「ぴ」は今、
娘が「ぴ」を見つけた公園の、
大きなくぬぎの木の下で眠っている。
本来なら、
その大きな木の枝にとまっているはずだったと思うと、
…心が重い。

[雀の話…おわり]


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(飯村和彦)

newyork01double at 15:08│Comments(18) 動画付き・スズメに飛ぶ楽しさを教えた! | 家族/ 子育て

この記事へのコメント

1. Posted by りゅう   2006年07月15日 15:34
読者登録ありがとう御座いました^^

この記事、読ませても貰って切なくなりました。。


取り急ぎ、ご挨拶まで。。。
2. Posted by 飯村和彦   2006年07月15日 15:43
>りゅうさま
ご来訪いただき、感謝します。

「ぴ」は、
「ぴ」なりに楽しんでいたと思うし、
私たち家族も精一杯のことをしました。
それでも、
やっぱり最後は悲しかったですね、とっても…。
3. Posted by パパZ   2006年07月15日 20:25
いろいろな示唆を含んだお話でした。
少しずつ少しずつ成長していくのは動物も人間も同じこと。
そして「ぴ」と飯村さん、娘さん、息子さんとのふれあい・・・
そこには人間と動物をこえた「命」のつながりがありますよね。
動画を見させていただいて、「ぴ」がたくましく見えましたよ!
4. Posted by 飯村和彦   2006年07月15日 21:40
>パパZさま
「ぴ」、
本当に、もう少し
…だったのかもしれません。
残念でしたが、
いい経験をさせてもらったということです。
5. Posted by ダーバン   2006年07月16日 06:29
残念でしたね。
でも、2ヵ月半の短い間で「ぴ」が飯村家に残してくれたことはとても大きかったのではないでしょうか!
せつなくもなりましたが、暖かさも与えていただきました。
娘さん、息子さんの心の中にもいつまでも「ぴ」は生き続けることでしょう。
6. Posted by さんぱつや   2006年07月16日 06:29
きっと、子供たちはこういう体験を通して優しい人に育っていくのでしょうね。
その優しさの中のどこかには「ぴ」が、そっと息づいているはずです。
7. Posted by つぼみ   2006年07月16日 08:32
はじめまして。
これまでも実はおじゃましておりましたけれど
今回は、なるママさんの記事よりまいりました。

記事にもするつもりなのですが
きのう、ツバメの巣立ちの練習をずっと見ていました。
こちらの記事を拝見して
ツバメもひとも・・・なにか大きな生命の輪の中で、応援しあって生きているような思いでいっぱいになりました。
すてきな愛情の発信、ありがとうございます。
8. Posted by 愛犬家   2006年07月16日 11:27
ご家族で小さな命を大切にした・・・
2ヵ月半の記録は、お子さん達にもいろんな事を教えてくれたでしょうね。
うちの息子も巣から落ちた子ガラスを連れてきた事があって・・・
たった一日でしたが、みんなで一生懸命看病して、
最後は庭に埋めてお花を添えました。
悲しい結果になったとしても、一生懸命だったその時は
大切なかけがえのない時間となりますね。

9. Posted by 飯村和彦   2006年07月16日 12:18
>ダーバンさま
その通りですね。
短い期間でしたが、大事なこと、
沢山あたように思います。
スズメも愛おしい鳥です。
10. Posted by 飯村和彦   2006年07月16日 12:22
>さんぱつやさま
確かなことは、
子供たちが、
スズメという鳥について、
とっても深い感情を抱くようになったことです。
いて「当たり前」の鳥ではない…
ということを知らず理解しているのではと思います。
スズメ、
現在都会では減っているそうです。
特に、ロンドンではその傾向が高く、
多くの方が、環境との関連を調べています。
11. Posted by 飯村和彦   2006年07月16日 12:24
>つぼみさま
ツバメの巣立ち。
是非、記事にしてください。
うちのマンションの一階ガレージにも、
ツバメが毎年巣を作っているのですが、
つぶさに観察したことがありませんので…。
12. Posted by 飯村和彦   2006年07月16日 12:28
>愛犬家さま
一生懸命、
弱った生き物の世話をしたということは、
子供たちに、
大きなものを残したと思っています。
どこが…という訳ではなく、
感情であるとか、生き物への接し方であるとか、
見えないけれど大切なものを…。

13. Posted by カメ    2006年07月17日 06:16
飛ぶことも覚えて、立派に成長した「ぴ」ちゃん。
最後は、急なことで、残念でしたね。
でも、この2ヶ月半の「ぴ」ちゃんとの日々は、
家族にとって、とても貴重なものになりましたね。
言葉だけでは教えられない、大事なことを、
お子さんたちは心に刻まれたことでしょう。

うちのスズメは、飛べるようになって、しばらくして
庭に放してやって、それきりだったので、
広い空に帰っていったと思っていましたが、
獣医さんのお言葉を聞くと、
あまり長生きはできなかったのかもしれません・・・
でも、ほんとに短い期間のそのスズメのこと
今でもこうして心に残っているのですもの。

ところで、ミルキーちゃんはその間どんな様子だったのかしら?
14. Posted by 飯村和彦   2006年07月17日 10:23
>カメさま
猫のミルキーがこの家に来る前だったので、
彼女と「ぴ」が向き合うことはありませんでした。
もし、ミルキーがいたら、
「ぴ」の面倒を見られなかった可能性が大きいですね。
ベランダに出て、
木の枝で鳴いている鳥を見つけては、
「にゃご、にゃご」
と恨めしそうな声をだす、猫ですから。

15. Posted by かえで   2006年07月17日 16:14
なくなったんですね・・・。
巣から落ちて 娘さんに助けられ
飛べるようになり・・・
野生には帰れなくとも、その生活が
「ぴ」ちゃんの 大切なかけがえのない
一生だったんだと思いますよ・・・。

生きる場所や環境が 普通のスズメとはちがっても
愛情を受けた時を過ごした「ぴ」ちゃんだったと思います。
16. Posted by 飯村和彦   2006年07月17日 16:34
>かえでさま
私たちも、
そう考えるようにしています。
大きく強く育てて、
自由に野山を飛べるようにしてはあげられませんでしたが、
間違いなく、
出来ることは全てやってあげましたから。
17. Posted by つぼみ   2006年07月19日 21:05
遅ればせながら
ツバメの巣立ちを記事にいたしました。
練習の瞬間が・・・撮れなくて残念。
18. Posted by 飯村和彦   2006年07月19日 21:26
>つぼみさま
そうですか。
早速、ブログの方へいってみましょう。
楽しみです。

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