目的のための犠牲(コラテラル・ダメージ)〜原爆投下の原点(上)〜原爆投下の原点(下)〜目的のための犠牲(コラテラル・ダメージ)

2010年02月19日

〜原爆投下の原点(中)〜目的のための犠牲(コラテラル・ダメージ)



アメリカ陸軍飛行隊の将校らは、
真珠湾攻撃(1941年12月8日)のかなり前から、
日本の人口密集部に対し、
「火炎兵器(焼夷弾)」
を使用することを考えていた。



ストップ



日本本土の爆撃目標に関する、
1939年の飛行隊戦術学校の講義録
「一般住民に対する直接攻撃は、
国民の志気喪失には多大な効果があるにしても、
“人道的配慮”によって排除される。
…しかし、この目標(一般住民)は、
ありうる報復手段として銘記すべきである」


関東大震災をヒントに…
「1923年の関東大震災は、
焼夷弾が、
日本諸都市に恐るべき破壊をもたらしうることを、
実証したものであり、
日本の一般市民に対する直接攻撃は、
日本人の志気破壊にきわめて有効である」
(1939年春、C.E.トーマス)


そんな背景から…


真珠湾攻撃の数日後、
アメリカ化学戦局は、
マサチューセッツ工科大学内に焼夷弾研究所を設立。
スタンダード石油会社のグループが、
尾部からナパームを噴出する、
小型で極めて有効な「焼夷弾M-16」を開発した。


1943年2月:大量焼夷弾空襲効果に関する報告書(外国経済局)
日本の市街地は、
火炎攻撃に対して極度に脆弱であり、
火炎攻撃は、
労働者から家を奪うことによって、
日本の生産を著しく妨げると結論づけた。


そこで、ある実験を行なった。


小東京・攻撃実験
1944年初頭、
国防調査委員会と陸軍航空軍の委員会は、
エグソン・フィールドに、
日本の建物群に見立てた、
「小東京」とよばれる小さな村を幾つか建設、
焼夷弾を使った攻撃実験を実施。


さらに…


調査をより現実的にするため、
日本の地震の歴史、特に関東大震災から、
火災の広がりと生産低下に関する情報を引き出した。


焼夷弾小委員会は、
「大都市に対する攻撃は、
日本経済を相当痛めつけ、
当該地域の住宅の70%を破壊し、
50万人以上の一般市民を殺害するであろう」
とし、直ちに、
圧倒的兵力をもって、
6都市(東京・横浜・川崎・名古屋・大阪・神戸)を、
爆撃するよう陸軍航空軍に勧告した。


また、


1944年11月末、
第20航空軍のノースタッド将軍は、
日本社会の中核的制度に向けられる航空攻撃が、
日本人を震撼させうると考えた。
そこで、
アーノルド総合司令官に対し、

東京の皇居に対し大規模攻撃を実施することで、
パールハーバーを追悼するよう提案

(…しかしこの提案は、時期尚早ということで却下された)


そして… 東京大空襲。


「東京が焼き払われて、
地図からも一掃され、
その地域のあらゆる工業標的が破壊され、
都市が魅力化されれば、
我々は戦争を短縮できる」
(1945年3月9日:ルメイ将軍)

1945年3月10日午前零時過ぎ
1665トンの爆弾を東京に投下。
焼夷弾により工業地域の18%、
商業地域の63%、
労働者階級の住宅地帯の全域がことごとく焼かれ、
25万戸の家屋が焼き払われた。


アメリカ戦略爆撃調査団は、
3月10日の空襲で、
8万7793人(実際には10万人と言われるが…)が死亡、
4万918人が負傷、
100万8005人が家屋を失ったと見積もった。


ところが、予想外の事態が発生!


3月10日の東京大空襲は、
直接その空襲の影響を受けた人々の志気はくじいだが、
日本の一般市民の志気を、
「受忍限度」に導く者ではなかった。

そこでB-29は、
4月と5月にも数千トンの焼夷弾を投下。
ところが、
東京の約半分にあたる、
150平方キロを焼き払ったにも係わらず、
戦争終結にまでは持ち込めなかった。


日本人の戦意


日本軍が、降伏するよりも自決を選び、
神風特攻機のパイロットが、
米艦船に向けて突入してきたことは、
「日本人を降伏させるのは容易ではない」
ことを示唆していた。


それならば…!



ワースト



最初の原爆の炸裂は、
日本人に途方もない心理的衝撃を与えねばならず、
その兵器の重大性が、
国際的に(特にソ連に!)認識されるためには、
十分に壮大でなければならない。

1945年7月26日、
アメリカはポツダム会談で警告を発した。

連合軍は、
日本人を奴隷化したり、
国家として滅ぼしたり、
領土を、
恒久的に占領したりする意図の無いことを宣言したが、
日本側が戦闘を継続するなら、
国土は完全に破壊されるだろうと警告した。


しかし、


使用する兵器の種類は明らかにせず、
日本にとって極めて重要な問題である、
天皇の運命についても、
意図的に言及しなかった。
                

結果、


日本政府は、ポツダム宣言を「黙殺」
アメリカによる、
日本への原爆投下の“大義”ができた。

連合国側(特にアメリカ)にしてみれば、
ドイツの都市に無差別爆撃を行うのであれば、
日本の都市にも、
無差別爆撃を行うのは、
当然すぎるほど当然だった。


アメリカは、

「戦争を仕掛けてきたのは日本だし、
“われわれの捕虜”を虐待したのも、
日本に他ならない。
そんな国に戦闘員、非戦闘員の区別など無用であり、
そもそも、
現代の戦争に非戦闘員は存在しない」

…として、原爆投下を正当化した。


こうして倫理制約がなくなると、
数10万の人間が住む都市に原爆を投下するのも、
難しい決断ではなくなった。

【つづく】


(飯村和彦)

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