松坂大輔 18歳の頃坂本龍馬と千葉さな子(佐那)の墓

2010年04月17日

最高の台詞だ!「ホテル・ニューハンプシャー」



本を読んでいて楽しいことの一つは、
「いいなあ…」と感じる台詞に出会うことだ。
その台詞は、
作者によって考え抜かれたものなのか、
文章をつむぎだしているときに刹那的にでてきたものなのか、
読み手には判然としないのだが、
ともかく、素敵な台詞が散りばめられた会話はいい。

そういう訳で本日は、
ジョン・アーヴィングの「ホテル・ニューハンプシャー」
1939年に始まるベリー一家の「愛の物語」である。
非常に有名な作品ゆえ、ご存知の方も多いはず。
文庫本の背表紙に記された内容紹介は以下の通り。
「…ホモのフランク、小人症のリリー、難聴のエッグ、
たがいに愛し合うフラニーとジョン、老犬のソロー。
それぞれに傷を負った家族は、父親の夢をかなえるため、
ホテル・ニューハンプシャーを開業する…」


ホテル・ニューハンプシャー


この物語の中で、
一番心動かされた場面が以下の部分。
フラニー(姉)とジョン(弟)の会話だ。
高校のアメフト部の連中に酷い暴行(レイプ)を受け、
心身共にボロボロになっている姉のフラニーを
弟のジョン(ぼく)がなぐさめている場面である。


……(以下、抜粋)……

フラニーはまた風呂にはいりたいと言った。
ぼくはベットに寝ころがって、
バスタブに湯が一杯になっていく音に耳をすませた。
それから起き上がって、バスルームのドアのところへ行き、
何か必要なものがあったら持ってきてあげると言った。
「ありがとう」
彼女は低い声で言った。
「外へ行って、昨日と、それから今日の大部分を持ってきてちょうだい」
彼女は言った。
「それを返してほしいわ」
「それだけかい。昨日と今日だけ?」
「それだけよ」
彼女は言った。
「恩にきるわ」
「ぼくにできれば、そうするよ、フラニー」
ぼくは彼女に言った。
「わかってる」
彼女は言った。彼女がゆっくりバスタブに沈むのがわかった。
「あたしは大丈夫」
彼女は囁いた。
「あたしのなかのあたしは誰も取りはしなかった」
「愛してるよ」
ぼくは言った。
彼女は返事をしなかった。そしてぼくはベットにもどった。

……(以上、「ホテル・ニューハンプシャー」から抜粋……


なんといってもフラニーの台詞だ。

「外へ行って、昨日と、それから今日の大部分を持ってきてちょうだい
彼女は言った。
それを返してほしいわ

損なわれてしまったもの。
その損なわれたものを取り戻すには、
取り返しのつかない時間を取り返すしかない。
でも、そんなことは非現実的であり無理だ。
つまり、
彼女の負った心の傷は、どんなことをしても癒されない。

「…昨日と、それから今日の大部分を持ってきてちょうだい。」
「…それを返してほしいわ

なんだろう。
とっても切なくて、
とっても悲しくて、
とっても辛くて、
とっても絶望的な状況を、
これほど洒落た台詞に還元してしまうフラニー。
そんな彼女に惹かれない読者はいないだろう。
ジョン・アーヴィング、凄い作家だ。


(飯村和彦)

newyork01double at 17:45│Comments(0) 気になるBOOKs 

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