2012年10月04日

米国・シェールガス革命の「明暗」〜経済発展と環境破壊〜



IEA(International Energy Agency=国際エネルギー機関)は、
「近く、地球全体が、天然ガス黄金時代に入る」と予測している。
その根拠が、シェールガス。

「シェールガス」とは、
シェール層と呼ばれる地層に含まれる天然ガスのこと。
これまで採掘が難しかったが、
「水圧破砕法」と呼ばれる新技術により、
通常の天然ガスと同程度の費用で生産可能になった。

シェール層はカナダ、北米で多く見つかり、
急ピッチで掘削作業が進んでいる。

米国メディアの紙面には景気のいい見出しが溢れる。

「シェールガスブームは、
すでに60万件の新しい雇用を生み出し、
2025年までには160万件になる」
「アメリカ経済再生の切り札になるのでは」との期待から、
一部にはゴールドラッシュの再来…との声まで!

ところが!

シェールガス生産には大きな副作用が伴う。

環境への悪影響である。
採掘作業による地下水や河川の汚染。
さらには、
「地震」を誘発するとの報告もある。

北米大陸同様、
シェールガス埋蔵量の多いヨーロッパでは、
フランスとベルギーが、
水圧破砕法による掘削を禁止した。

いまアメリカで沸き起こる、新エネルギー・シェールガス革命。
そこにある「光と影」とは?



シェールガス



まずはシェールガス革命の「明部」から

1)シェールガスがもたらす明るい未来

「多くの新雇用の創出」
「シェールガスは、すでにに60万件の新雇用を生み出し、
2025年までには160万件になる」(HIS Global Insight)

「天然ガス価格は2008年より80%低下。去年一年間だけで45%も下がった」

「2025年までに石油輸入量が20%減る」

「今後10年では、3割から4割、原油輸入量を減らせる。
4割だと年間およそ$160billion
それがこの先ずっと続くことの経済効果は計り知れない」
「大幅減税と同じ効果をもたらす」
( Moody’s Analytics)

そして、
米政府やエネルギー関係者が夢見るのが、

「Energy independence(エネルギー自給)」

シティグループの分析によると、
米国は2020年までに「エネルギー自給」を達成。
同時に原油や精製石油製品、天然ガスの輸出国になりえるという。

すると…

(エネルギー自給が達成されると)
350万件の新しい雇用が創出され、
失業率は2%減る。

そのうえ、

エネルギー自給(エネルギー輸入に掛かっていたコスト軽減)により、
製造業ほかで構造改革が進み、輸出競争力も高まる。

最近では、
シェールガス埋蔵量の多い北米、カナダ、メキシコのことを
「”New Middle East”(新たな中東=北米、カナダ、メキシコ)の誕生!」
と表現し、その価値を強調する向きまである。



2)“シェールガス革命”に沸く現場
ペンシルバニア州ウィリアムズポートでは…

「6つの新しいホテルが誕生」
「約100の企業が街に入ってきた」

「2010年の経済成長率は7.8%、全米でもっとも早く経済成長している都市」

もちろん、
ペンシルバニア州のトム・コルベット知事の鼻息も荒い。
「長い間失業していた人が、職につけた。
まさにゴールドラッシュならぬ“シェールガスラッシュ”。
家や店、レストランへの需要も高くなった」

「ピッツバーグ郊外に天然ガスから薬品をつくる新しい化学会社ができる。
これだけで10000件の建設関係の仕事が生まれる!」



3)新エネルギー革命の発端は?

約12年前、
テキサスの試掘者、Geoge Mitchell(ジョージ・ミッチェル)が、
「水圧破砕法(hydraulic fracking)」という天然ガス掘削技術を商業化。
これがニューエネルギーブームに火をつけた。

水圧破砕法とは、
大量の水、化学薬品、砂を使い、
岩盤の中にあるガスを出す技術。
この方法では、ガスの含まれた岩盤を水平に掘っていくため、
これまでの垂直掘削より簡単に多くのガスや原油を産出できる。

水圧破砕法によって、
これまで割高だった
シェール層(=頁岩(けつがん)層)に含まれるオイルの採掘が、
安くできるようになった。

その結果、アメリカ国内の石油生産量は…

シティグループ予測:2015年までに「現在より3割」増える
アメリカ政府の予測:2020年までに「22%増加」。一日あたり670万バレル

ちなみに、
いま世界では、一日あたり8600万バレルの原油を生産している。
そのうちの1900万バレルをアメリカ消費。
米国政府によると、
一日に消費する1900万バレルのうち、890万バレルが輸入で、
そのうちの420万バレルが中東(OPEC)からの原油。

つまり、シェールガスの開発により、
アメリカ国内でエネルギー革命が進展して、
海外(特に中東諸国)に頼っている原油の一定量を国内で賄えるようになれば、
米国経済は劇的に変わる…と考えられているのだ。


しかし、シェールガス革命には大きな「副作用」が!



シェールガス革命の「暗部」とは?

1)水圧破砕法にシェールガス掘削は、環境に深刻な悪影響を与える!

イギリスの環境保護団体は、
水圧破砕法によってアメリカの地下水が汚染されていると警告。
フランスとベルギーでは、
すでに水圧破砕法による掘削を禁止した。

さらには、
「地震」を誘発する危険性もあるといわれている。

イギリスの会社、カドリラ・リソースが、
イギリス北西部で掘削を始めたところ、
現場近くで二度地震が発生。
そのため昨年春から掘削作業を中断している。
カリドラが後に発表した調査報告では、
水圧破砕法が「地震」を誘発したとしている。



2)汚染現場を検証:アメリカ河川の危機=「サスケハナ川」

サスケハナ川とは、アメリカ東海岸最長の川。
ニューヨーク州に始まり、ペンシルバニア州とメリーランド州を抜けて、
ワシントンD.C.のチェサピーク湾に流れ込む。
ペンシルバニア州の東部3分の2を占めるなど、
流域面積は7万1224平方キロに及び、
天然ガスの採掘地域「マーセラス・シェール」も通過する。

また、600万以上の周辺住民の水源としても利用されている。

実はこのサスケハナ川がいま、
深刻な危険に晒されつつあるという。

環境保護団体「アメリカンリバーズ」が毎年発表する
「アメリカで最も危機に瀕している川」というリスト。
このリストは、「最も汚染された川」ではなく、
「今後数年で運命が決する岐路に立っている川」を対象にしている。

その2011年度のトップが、サスケハナ川だった。
理由としては、この川の流域に含まれる
「マーセラス・シェールの採掘地域」を主な汚染源として挙げている。
この場所は近年、豊富な埋蔵量の天然ガスを目当てに、
急速に開発が進んでいる地域である。

汚染の理由は、「水圧破砕法」だとしている。

地下のシェール層から天然ガスを取り出す
「水圧破砕法(フラッキング)」は、大量の水を消費する。
砂や化学物質を含む大量の水をポンプで圧送し、
極めて高い圧力で気孔のない岩石層を砕く。

環境保護団体は、
「フラッキングの廃水は人体に有害で、発がん性の可能性もある。
しかし、現在ほとんどの施設で適切な廃水処理ができていない」
と懸念を表明し、
「地下や地表の源泉の汚染を防ぐ法律が不十分だ」
とも指摘している。



では、米国のシェール革命と日本の関係は?

シェールガスの米国内での生産量が、
ガス全体の2割に達した今、米国政府は次なる目標に向かっている。

「ガス輸出国にもなりえる状況になった」
(エネルギー省ポネマン副長官:2011年12月東京講演)

その実現に向け現在、
シェールガスを液体のLNG(液化天然ガス)にして、
輸出する基地作りが進行している。

これを受けて日本は、
そのアメリカ産LNGを輸入すべく動いている。

原則としてアメリカは、
FTA(自由貿易協定)を結んだ国にしか輸出を行わない。
そこでアメリカとFTAを結んでいない日本は、
「特別許可」を求めている。
今年中にもその結論がだされる予定だという。

現在日本は、LNGを中東や東南アジアからの輸入に頼っている。
おまけに価格はアメリカ国内価格の5倍と高い。
もし、米国から輸入できるようになれば、
輸入ルートを増やせるのはもちろんのこと、
「これまでより安く、LNGを買えるのではないか」と期待されている。

東日本大地震以後、
原子力エネルギーの代わりにLNGが多く使用されているため、
輸入量も急増中(去年38%増。今年は47%増の見込み)

日本でも今月(10月)3日、
石油開発大手の石油資源開発が、
秋田県にある鮎川油ガス田でシェールオイルの採取に成功した(国内初)。
国産資源の開発や、掘削技術の向上に繋がるとの期待されるが、
推定埋蔵量はわずか。
これで日本のエネルギー不足を解消する…とはいい難い。

「明と暗」が交錯するシェールガス革命。
新しいエネルギーはわれわれの未来を豊かにするのか、
それとも、大きな「負荷」を世界に与えるのか、
今後も注視が必要だ。

(飯村和彦)


newyork01double at 15:30│Comments(1) 取材ノートより | 地球環境を眺めると…

この記事へのコメント

1. Posted by トラベラー   2012年10月05日 08:16
秋田のシェールオイル採取成功のニュースでは環境への影響について大きく触れられていません。
米国でのシェールガス採掘による環境問題等を見聞きして懸念を持っていたので、秋田のニュースも複雑な思いで聞きました。
幾つかの国ではフラッキングが禁止されているとのこと。
そのような問題や懸念が看過され、開発や輸入を進めていいのでしょうか。
もっと詳しく知りたいです。
メディアでの多面的な報道を望みます。

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